【漫画】シュトヘル【感想】
それは私が新卒で入社した会社でヘロヘロになっていた時でした。
職場の休み時間に入った本屋でとある漫画の1巻が立ち読みできるようにしてありました。その場で一気に1巻を読み終えた私は即2巻を買って帰りました。それが今回紹介する『シュトヘル』という漫画との出会いでした。
『シュトヘル』は今私が最も続きを楽しみにしている漫画の一つでして、そのストーリーと魅力について熱く語っていこうと思います。
あらすじ
13世紀初頭、チンギスハン(テムジン)率いるモンゴルが勢いを増し、他国を飲み込みつつある時代。史上最強とうたわれたモンゴル軍から「悪霊(シュトヘル)」と恐れられた女賊がいた。
一方モンゴル側に属するツォグ族の皇子・ユルールは敵側である西夏の文字に魅せられ、モンゴルによって焼き尽くされんとする西夏文字を救うことを決意する。
その二人の出会った先に待つ運命とは…
ご紹介のようにこの漫画の主役はなんといっても「文字」です。日本の漫画はあらゆるジャンルの作品がありますけどここまで文字がフューチャーされている作品ってあるんでしょうかね?
文字が軸になっているためストーリーに芯が通ってぶれることがありません。歴史を基にした重厚なストーリーはめっちゃ私好みです。歴史の教科書で西夏文字を見たの覚えてたよ、懐かしい。
モンゴルとか西夏の歴史を知らなくても作中に説明がたくさん出てくるし問題なく楽しめると思います。
須藤という現代日本の少年もストーリーに絡んでくるんですが、こういう設定にする必要あったか?現代と絡めず当時の話だけでよいのでは?と最初は思いました。
でも読んでいくと彼を絡ませることによってユルールの夢が世迷いごとではない、実現する未来だ、という説得力につながるので逆によかったんじゃないかと今は思います。
作者の伊藤悠さんは『皇国の守護者』という原作つきの漫画で作画を担当していてその画力は折り紙つきですが、シュトヘルを読むと話を作る能力も相当高いように感じます。
人生経験たくさん積んだ方なのかな、台詞に重みがあります。
文字とは何か?人は何のために文字を使うのか?読んでいくうちに考えさせられ、ぐっと胸に迫ってきます。
ここがスゴい①画力
この漫画のすごいところは何と言っても伊藤悠さんの画く絵です。
絵がうまいと言ってもうまさにはいろいろあると思いますが、伊藤悠さんのすごいところは老若男女デブだろうがハゲだろうが美人だろうが不美人だろうがあらゆる人をあらゆる角度から描くことができることでしょう。
骨格や筋肉の付き方などある程度わかって描いているんだろうなあ。どれだけ絵を描いてきたのか、私とは比べ物にならないと思いますね。
あと動物もめちゃくちゃうまいです。ユルールと行動を共にするヤラルトゥという大鷲がいるんですが、鷲の羽って難しいですよね?なんであそこまでちゃんと描けるんだ?ってくらいリアルです。登場回数多いのに信じられないです。
モンゴルあたりにいる牛のゴワゴワした毛並みと馬の毛並みを描き分けていたときには鳥肌立ちました。ペン先を変えているのでしょうか、あのゴワっとした毛の感じを漫画であそこまで伝えられるのはすご過ぎです。感服です。
この絵だからこそストーリーが生きてくるというか、絵と話のベストマッチです。
ここがスゴい②名言・名場面
シュトヘルは絵だけでなく話もすごいんです。話が面白いというだけでなくどの巻にも必ず名言・名場面があるんじゃないか、ってくらい名言・名場面のオンパレードです。
どれが一番とか選べないですが、ここでは3つほど紹介します。
「何処にあっても、おのれの、生(なま)の台詞を吐け」
これは7巻で金国の将軍がユルールに向かって言う台詞です。
私の思う生の台詞というのはその人の生身の言葉、本心、ということだと思います。
生きていく上では生の台詞だけを吐くのは本当に難しい。
欲しくないものを貰ってもありがとう嬉しいと言ったり、心では悪口を言っている相手におべっかを使ったり。心とは裏腹の台詞のなんと多いことか。
でもユルールはいつも揺るぎなく生の台詞を言う。だからこそその台詞は人の心に届くんだと思います。
ブログって人に見せるものだから、どう思われるか?とか気にしだすと思ってもいない上辺だけ綺麗な言葉を書き連ねて、素敵だと思いました!的な「良いこと」しか書けなくなってしまいそうです。
でも、自分の書きたいことを書きたいように書きたくてブログを始めたので、その辺ユルールに見習って「このブログでは自分の生の言葉を書く」ことをモットーにやっていく所存です。
そのうえで伝わりやすいようにとか、できるだけ楽しんで読んでもらえるような工夫はしたいですけど。
「目前でかなう夢だから、見ると思うか」
これは10巻のユルールの台詞です。
私の夢はですね、「地球上のすべての人が安心して幸せに暮らせるようになること」なんですよ。
あ、今笑った人は前に出なさい。このユルールの台詞を100回読んで聞かせます。
ユルールが夢見るのは誰もが文字を持つことで人々が助けあうことができるようになり、争いで無用に死ぬことがなくなる世界です。
当時の世界では夢物語としか思えないことですが、今の日本ではおおよそ実現していますよね。まだ完璧とは言えなくても。
ユルールも須藤から日本の話を聞いて「夢のような話だ」と言っています。
途方もなくても、目前にはとてもかないそうになくても、夢見ることを諦めない誰かがいるからこそ何かを実現することができるんじゃないでしょうか。
そして9月に発売された13巻読むと「死ぬ前に一歩でも二歩でも進まなくては、おれたちの文字には未来も来ないんだ」という台詞が!
夢見るだけでは未来は来ない、実現するためには一歩でも前に進まないと、うーんやっぱりこの漫画はすごい。
「いつも生が死の先を走る。死に方は生き方を汚せない」
これは11巻のシュトヘルの台詞です。
「甲斐ある死は恐れるものではない」というモンゴルの武人に対するシュトヘルの言葉なのですが、無残に死んだらその人の生きた年月は無残なのか?というとそうではないですよね。
寄生獣とかなんでも人がたくさん死ぬ漫画ってありますけど、その人の生きざまを描かれることもなくあっさり死んでいったり無残に殺される人たちを見ると、その人自身がそういう人(あっさり死ぬような、価値のない人)に見えてしまうことがあるんですよね。
こんな風に無残に死んでいくような人生はみじめだ、みたいな(漫画を描いている人がそう思っているかは知りませんが)
でも、はたしてそうなのか?というとどの人も「食って寝てそこにいた」し、「どう死のうが生が先」なわけです。
仲間をすべて無残に殺されてその亡骸が腐っていくところを見たシュトヘルが言うからこその重みのある台詞です。
自分がどう死ぬかはわからない。人からはみじめだ、無残だと言われるような死に方をするかもしれないけど、死に方で生き方が決まるわけではないのだ、と思うと勇気が出ますね。
どう死ぬかはわからないからこそ、生きている間はせいいっぱい生きたいものです。
長々と語りましたが、シュトヘル本当にお勧めの漫画です。
現在13巻まで発売されていて、物語もいよいよ大詰めな感じです。
どのように完結するのか目が離せません。