趣味のこと、幸せのこと

ヤマギシで生まれた発達障害者が幸せについて本気だして考えてみた、というほどでもなく趣味についてやあれやこれや気ままに書くブログ

【映画】レッドタートル 答えのない問いの中に生きる【感想】

先日映画『レッドタートル ある島の物語』を見に行きました。

ジブリ映画ですが監督は外国の人(マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット)で、フランスで主に制作された映画です。

先に観た母がイライラして途中で映画館から出ようと思った、こんなこと今までで初めてだ、と言うのを聞いて観るのを躊躇したけど、予告にすごく惹かれたので思い切って観に行きました。結果私はとてもよかったです。観終わった後何ともいえない余韻に包まれました。

 

あらすじ

嵐の海に投げ出された一人の男がある無人島に流れ着く。筏を作り脱出を試みるが、何度試みても不思議な力で筏が壊されてしまう。

三度目に筏の下で大きな赤い海ガメ(レッドタートル)と出会い…

 

 

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※ここからネタバレまくりです。

 

 

 

この映画は「普通の」映画と同じ見方をしたら確かに面白くないかもしれません。

まずセリフが一切ない(叫び声や呼び声とかはある)

そしていわゆる起承転結、ストーリーらしいストーリーがない。

そして人によって一番おかしいと感じるのはなぜ?に明確な「答え」や「説明」がなく、作中で意味付けがなされないことかもしれません。

 

ざっと列挙していくと

なぜ男は嵐の海の中にいたのか?

その前はどこでどんな暮らしをしていたのか?どんな人なのか?

その島はどこ、あるいは何なのか?

なぜ男は島から出られないのか?

なぜレッドタートルが人間になったのか?彼女は何者なのか?

なぜ突然津波がやってきたのか?

なぜ息子は島から出て行くことができたのか?あの後どうなったのか?

なぜ女の人はレッドタートルに戻ったのか?

 

こんな感じでしょうか。

そもそも起承転結がないのは、この映画では物語が一人の男の人生になっているからです。

無人島に流れ着き、脱出を試みるが叶わず、レッドタートルと出会い、人間の女性となったレッドタートルとの間に子どもができ、成長し、子どもは島を出ていき、自分はその島で年老い死んでいく。

ほぼこれだけです。普通の映画と同じように観ようとすると「わけがわからない」あるいは「何が言いたいのか?」と感じるかもしれません。

でも私は観ていて思いました。この男の人生と私の人生は根本的には何も変わらないのではないか、と。

無人島だった島で家族三人で生きていくという特殊な状況とはいえ、生きるために日々を過ごし、生きれるところまで生きて、そして死んでいく。ただ純粋に生がある。

純粋に命とは何か?なぜ生きるのか?生きる意味とは何か?と問うと、それにはっきりと「答え」を出すことはできないのではないでしょうか。

この映画では無数のなぜ?にはっきりと答えが示されていないのは、生きることそのものが答えを得られない問いの中にあるからだと思うのです。

それでも人は問わずにいられない、問うからこそこういう作品として結実する、芸術とはいのちへの問いそのものだー!この映画は芸術だー!ハアハア。落ち着こう。

そういう映画としてみると、津波がなんの前触れも理由もなく描かれるのも、人生において何の前触れも理由もなく起こることが山ほどあって、それでも生きていくしかないということを表しているといえます。

成長した息子だけが島を出ていくことができたのも、息子にはパートナーが島にいない以上外に出て行って探すしかないからなのではないかと解釈しました。子どもは親から離れ自立していく定めなら、いつまでも一緒の島にい続けるのは難しいということかもしれません。

私はそういう視点で観ていって、最後に男を看取った女性が再びレッドタートルになり海に消えていくのを観た時、切ないのか悲しいのか、はたまた苦しいのか、言葉で表せないような気持ちで胸いっぱいになりました。感動と一言で言いたくないような不思議な気持ち。

でも、嫌な気持ちでもなくて、本当にこの気持ちはなんだろう?映画を観て(あるいは本やドラマとかも含めて)こんな気持ちになったのは初めてでした。

それはやはりこの映画が純粋に「生きる」ということそのものに切り込んでいるからなんだろうな、と思います。

とにかく男が息を引き取り、レッドタートルがゆっくりゆっくり海に向かう描写が何とも言えなくて、このシーンは生きることと死ぬことについて本質的な何かが描かれていると言っていいんではなかろうか、と思いました。ああ、これは言葉でうまく伝えられなくてもどかしい。

人によってこの映画の面白さが全然違うのも「生きる」ということの捉え方が人によって全然違うからだろうな、と思います。特に小さいお子さんはつまらなく感じるかもしれません。大人の映画なのさ、ふっ、なんちゃって。

私も5歳で「木を植える男」のアニメを観たときは意味わからなくてまったく面白くなかったわー。

でも無人島に流れ着いてから次々と出来事が起こるからハラハラして、私は全然退屈しなかったけどな~。母にとって何があかんかったのだろう?

 

そして何より絵が芸術的すぎて画面を夢中になって観ていたから、私は絵だけでも一見の価値あり、と思いました。海や自然が本当に美しい。

葉っぱの一つ一つ、動物たち、影の動き等も完璧なんですよ!あとカニがかわいい。カニはこの映画の癒しですな。

最近また絵を描きはじめて、花一つきちんと描くのにすごく時間がかかる身としてはあれだけの映画を作り上げるのって相当だと思います。感服です。

監督の熱意はものすごいものがあると思います、これの制作に8年かかったというの納得です。

自分の生きた証としてこういう作品を残すのっていい人生だと思うなー。

 

人間の絵も目が点で表されているから表情が分かりにくいんだけど、動作や叫び声などで感情が伝わってくるのがすごい。息子が島を出ていくのを決意したときとか、男が息を引き取ったところとか、台詞一切なくても伝わってきました。

ていうか無人島で独りぼっち、て絶望しかないから、表情が乏しい絵でまだマシだった。そうじゃなかったら怖くてとても観ていられなかったかも。

男がバイオリンを弾く人の幻を観るあたりきつかったです。幻と最初は気づかなくて、必死で呼びかけたらかき消えてしまう、辛い…

多分レッドタートルが現れなかったら男は孤独で発狂していたと思うから、マジ女神ですよ。結局レッドタートルは何者で、なぜ男のもとにやってきたのでしょうね。

私は絶望でおかしくなった男がレッドタートルを人間だと思い込んで、幻を死ぬまで観ていたと解釈もできる、と思ったけれどそれじゃ救われなさ過ぎるから、やはりレッドタートルがその男の人を救ってくれたことでいいや。

レッドタートルは全然ヒットしてないみたいだけど、もっと多くの人に観てほしいなあ。万人受けしないのはわかるけどね…。私は好きだーーーーー